固定残業代払いには要注意~企業の経営者・総務の方へ~
弁護士 松﨑広太郎
固定残業代制度
最近、未払い残業代の請求に関するご相談を多く頂いています。中でも「営業手当は残業代扱いとする」「残業代は固定で月5万円を支払う」等と記載された労働条件通知書を使っている会社を非常に多く見かけます。
この固定残業代の主張が認められると、例えば
・基本給17万円(わかりやすいように、ざっと時給1000円と換算)
・固定残業代5万1000円
・残業時間は月50時間
の労働者がいたとすると、残業代を計算すると、6万2500円(1000×125%×50h)の残業代の支払いが必要になります。
ここで、固定残業代が有効であれば、会社はすでに、5万1000円を支払っていますから、差額1万1500円を追加で支払えば良いことになります。
しかし、固定残業代の合意が無効と判断されると、残業代計算の基礎賃金から除外できる項目は住宅手当などの一部に限られることから、会社が「固定残業代」として払っていた手当すらも、基礎賃金にカウントすることになります。
そのため、先の例だと、
・基本給22万1000円(時給換算およそ1300円になる)、
・既払い残業代0円
・残業時間は同じく50時間
という扱いになります。
そのため、計算は、8万1250円(1300×125%×50h)となります。
そして、残業代は一切払われていないことになるため、控除できるものがなく、この金額を全額支払う必要があります。
このように、固定残業代合意が有効となるか、無効となるかで請求金額は大きく変わってくるのです。
2 裁判所の判断
裁判所では、以前から、支払われている固定残業代と基本給を明確に区別できなれば無効だという要件を提示してきました。つまり、「残業代は基本給に含む」等の曖昧な規定ではダメだという判断を示してきました。この明確性の基準だけでいくと先の「5万1000円は固定残業代とする」という規定は有効なように見えます。
しかし、最近の東京等での裁判例では、
・①明確性の要件に加えて、
・②当該手当が残業代としての実質を兼ね備えていること
・③固定残業代額が実際の残業代の額を下回るときに、不足額を支払う合意をしているか、現実に不足額を支払っていること
という要件を要求するものが増えてきています。③の要件について少し説明すると、先ほどの例でも、1万1500円の差額が出ていましたが、これを現実に毎月補填していなければ、固定残業代の合意は無効になりますよということなのです。仮に不足額補填の合意だけをしてみても、結局現実に不足額を補填していなければ、裁判所はそのような合意は否定するでしょうから、結局のところ、現実に不足額を補填していなければ、無効になるように感じています。
経営者の方からみればこれはかなり厳しい要件に感じると思います。ある意味、固定残業代のメリットは、労働者の労働時間、残業代の計算の手間を省き、毎月固定額で支給すればよいという効率の良さにあります。しかし、裁判所はとにかく毎月不足額を計算し、それを清算することを求めていることになります。
3 まとめ
以上のように、今、固定残業代合意の有効性の判断は相当に厳しくなっています。これを使用者の方から見ると、「基本給17万円であれば、毎月ちゃんと残業代も含めて給与を払うことはできたよ。でも残業代として考えてた5万1000円が基本給に計上されてカウントされたら経費が足りないよ!」ということになります。ですから、固定残業代の規定を就業規則や、労働条件通知書に定めている方は、訴えられる前に、是非弁護士にご相談いただき、それぞれのケースに応じて対策を考えて頂きたいと思います。
固定残業代の件で、おやっ、と思うことがあれば、当事務所にご相談ください。