弁護士コラム
同一労働同一賃金の最高裁判例
1 はじめに
弁護士の田中久仁彦です。
今回は、本年10月12日と10月15日に立て続けに出ました、いわゆる「同一労働同一賃金」に関する3つの最高裁判例について、紹介したいと思います。
2 大阪医科大学事件
本件は、有期労働契約の労働者(いわゆる非正規職員)と無期労働契約の労働者(いわゆる正職員)との間で、賞与(ボーナス)について相違があったこと(非正規職員には賞与が支給されないこと)の適法性が問題になった事案です。なお、賞与以外にも私傷病で欠勤している間の賃金について相違があった点も問題になりましたが、ここでは賞与に限って紹介します。
最高裁は、非正規職員に賞与を支給しないことは不合理とは認められない(つまり、賞与を支給しなくても違法ではない)と判断しました。
その理由は、
①賞与の支給には、正職員としての職務を遂行できる人材の確保やその定着を図るなどの目的があること
②正職員と非正規職員との職務の内容や職務内容・配置変更の範囲に一定の相違があったこと
③非正規職員が正職員に段階的に職種変更できる試験制度が設けられていたこと
などが挙げられています。
3 メトロコマース事件
本件は、有期労働契約の労働者と無期労働契約の労働者との間で、退職金について相違があったこと(非正規社員には退職金が支給されないこと)の適法性が問題になった事案です。
最高裁は、非正規社員に退職金を支給しないことは不合理とは認められない(つまり、退職金を支給しなくても違法ではない)と判断しました。
その理由は、
①退職金は、正社員としての職務を遂行できる人材の確保やその定着を図るために、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対して支給されていること
②正社員と非正規社員との職務の内容や職務内容・配置変更の範囲に一定の相違があったこと
③非正規社員が正社員に段階的に職種変更できる試験制度が設けられていたこと
などが挙げられています。
4 日本郵便事件
本件は、有期労働契約の労働者と無期労働契約の労働者との間で、年末年始勤務手当、祝日給、扶養手当、夏季休暇及び冬期休暇等について相違があったこと(非正規職員にはこれらの手当等が支給されないこと)の適法性が問題になった事案です。最高裁は、これらいずれも、非正規社員との間で相違があることは不合理である(つまり、違法である)と判断しました。ここでは、年末年始勤務手当と扶養手当について紹介します。
年末年始勤務手当については、
①最繁忙期である年末年始に勤務した際に支給されるという性質のものであること
②業務の内容やその難易等にかかわらず実際に勤務したこと自体に応じて一律の金額が支給されるものであること
などから、非正規社員に支給しないのは不合理であると判断しました。
扶養手当については、①継続的な勤務が見込まれる労働者に扶養手当を支給することは経営判断として尊重できるが、②非正規社員についても扶養家族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当の趣旨は妥当することなどから、非正規社員に支給しないのは不合理であると判断しました。
5 留意点
もっとも、これらの最高裁判例は、あくまでも当該事案に限った判断であり、およそ一般的に、非正規労働者に対して賞与・退職金を支給しなくてよいとか、年末年始勤務手当・扶養手当等を支給しなければならないといった判断がなされたわけではありませんので、この点には注意が必要です。具体的に、非正規労働者に賞与・退職金を支給しなくてもよいのか、支給するとしても正規労働者と比較してどの程度の賞与・退職金を支給すべきなのか、非正規労働者に年末年始勤務手当・扶養手当等を必ず支給しなければならないのかは、事案ごとの判断にならざるを得ないでしょう。
6 さいごに
以上のように、正社員と非正規社員との間で給与等の取扱いに相違がある場合、それが許されるものなのか許されないものなのかは、一概には言えず、専門的な判断が必要になり得ます。
この点についてお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談下さい。
以上