弁護士コラム

労働問題Q&A【2】

 

みなさん、こんにちは。かばしま法律事務所の弁護士、泊祐樹です。

本日は、労働問題Q&Aの第2回について、掲載させていただきます。

 

第2 働き方改革関連法案について(改正危険度大)

Q8 働き方改革関連法案はたくさんあるようですが、各法律の施行などのタイムスケジュールがいまいちよく分かりません。

A8

タイムスケジュールについては厚労省から以下のような発表されています。

 

Q9 この中で時間外労働の限度時間が設定されたと聞いたのですが具体的にはどうなっているのでしょうか

A9

従来の法律では、36協定に特別条項を盛り込めば、実態としては労働時間の上限がなくなるという問題がありました。

そこで、今回の改正で、①年720時間以内、②単月100時間未満、③複数月平均80時間以内という法律上の制限が入りました。これらの規定は相互に複雑に関連していますので、厚労省作成のパンフレットを見ていただくのが一番わかりやすいと思います。

https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf

 

Q10 次に有給休暇の定めについてはどのような変更点があったのでしょうか

A10

年次有給休暇が年10日以上付与される労働者に対して、そのうち年5日については、使用者が時期を指定して取得させることが義務付けられました。

使用者からの有給休暇の時季指定は、労働者の意見を聞いたうえで、なるべく意向に沿う形で行うこととされています。また、労働者が自ら取得した有給休暇については、この5日間から控除することになります。注意点としては、労働者が先に時季を指定して有給休暇の申請を5日分した場合、会社としてはもう時季指定はできません。

 

Q11 前年度からの繰り越し分と合算して有給休暇が10日以上となった従業員にも5日強制付与する必要があるのでしょうか。

A11

年「10日」は当年度分として付与されていることをいうので、パートタイマーなどが前年度から繰り越した分と今年度の分を合計して10日あっても対象とはなりません。

 

Q12 管理監督者などに対しても同制度の対象となるのでしょうか

A12

「労働者」には管理監督者も含みますので、課長などの役職の人にも適用されます。

 

Q13 どの従業員が何日有給をとったかをきちんと把握する必要がありそうですね。それも大変ですよね・・・

A13

この有給日数の管理自体も義務とされています。

つまり、取得させた有給休暇については、労働者ごとに「年次有給休暇管理簿」を作成し、3年間の保存が必要です。管理簿の作成と保存に関しては罰則がありませんが、指導の対象にはなりますので、注意が必要です。

 

Q14 そういえば弊社は有給休暇とは別に独自に夏季休暇などの特別休暇を強制的に取得させていますので、この分は5日から控除できるでしょうか?

A14

御社のように労働基準法で定められた年次有給休暇とは別に、特別休暇を就業規則に定めている場合がありますが、本制度はあくまで法律上の有給休暇として5日間を与える義務があるとされていますので、特別休暇では代用できません。

 

Q15 同一労働同一賃金という言葉も頻繁に聞くようになったのですが、どのような改正が行われたのでしょうか。

A15

デフレで沈んだ中流階級の復興、若者支援、多様な働き方支援を目的に、均等待遇・均衡待遇を目指す条文が整備されています。

具体的には以下のような改正条文が施工予定となっています。

◆パートタイム・有期雇用労働法

令和2年4月1日施行(中小企業は令和3年4月1日から)

(不合理な待遇の禁止)

第8条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)

第9条 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。

 

Q16 ちょっと条文だけ読んでもよく分からないのですが、それぞれどのような条文でしょうか。

A16

前記のパート・有期法の8条は均衡待遇の条文、パート・有期法の9条は均等待遇の条文です。均等待遇の条文は、パート労働者、有期契約労働者がそれぞれ正社員と全く同じ条件下で働いている時に、差別したらいかん、つまり同じ条件にしないといけませんよという条文になっています。これに対して、均衡待遇の条文は、業務内容や責任の範囲に多少の差はあってもその差を飛び越えるくらい不合理な格差はダメですよという条文になっています。

実務的に重要なのは8条、つまり均衡待遇の条文なのでもう少し詳しく見ていきます。この条文を分解して検討すると、以下のように整理できます。

①:基本給、賞与その他の待遇

→賃金総額で比較するのではなく、待遇ごとに判断。賃金関係にだけにとどまらない

②:通常の労働者の待遇との間において

→要は正社員の待遇

③-1:職務の内容

③-2:職務変更、配置変更の範囲

③-3:その他の事情

→最も問題となるその他の事情は定年後雇用かどうか

④:不合理と認められる相違を設けてはならない

→「合理的でない」というレベルではなく、「不合理である」ことの立証が必要

 

Q17 パート・有期法8条に違反するとどうなるのでしょうか。

A17

正社員の受領してきた給与との差額を損害賠償する必要があります。後ほど解説する通り、各種手当などについて、非正規社員と正社員と待遇に不合理な格差がでないように賃金体系を整備する必要があるのです。

 

Q18 「待遇」といってもいろんな待遇の区別が実際にはあるのですが、具体的にはどのように見ていけばよいのでしょうか。当社の正社員と非正規社員にはいろんな手当の差があります。順番に教えてください。まず住宅手当についてはどのように考えるのでしょうか。

A18

旧法下での裁判ではあるのですが、改正法でもそのまま参考になる重要判決にハマキョウレックス事件(平成30年6月1日/最高裁判所第二小法廷/判決)があります。この事案では、正社員と契約社員で同じトラックドライバーをしており、ほぼ同じような業務をしていたので、均衡待遇を行う必要性がありました。

この判決の中で以下のように判断されています。

・住宅手当(不合理ではない)

上告人においては、正社員に対してのみ所定の住宅手当を支給することとされている。この住宅手当は、従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給されるものと解されるところ、契約社員については就業場所の変更が予定されていないのに対し、正社員については、転居を伴う配転が予定されているため、契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得る。

したがって、正社員に対して上記の住宅手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものとはいえないから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

つまり、正社員にのみ転居を伴うような配置転換が想定されているような場合には、住宅手当に差があっても違法にはならないと判断しています。他方、事業場が一つしかなく、正規、非正規問わず、転居を伴うような異動が想定されない場合には、住宅手当で差をつけることは違法となる可能性があります。

 

Q19 弊社では、無遅刻無欠勤だった正社員にのみ、皆勤手当を支給していますが、これはどうでしょうか。

A19

・皆勤手当(不合理である)

上告人においては、正社員である乗務員に対してのみ、所定の皆勤手当を支給することとされている。この皆勤手当は、上告人が運送業務を円滑に進めるには実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから、皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであると解されるところ、上告人の乗務員については、契約社員と正社員の職務の内容は異ならないから、出勤する者を確保することの必要性については、職務の内容によって両者の間に差異が生ずるものではない。また、上記の必要性は、当該労働者が将来転勤や出向をする可能性や、上告人の中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情により異なるとはいえない。そして、本件労働契約及び本件契約社員就業規則によれば、契約社員については、上告人の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあるとされているが、昇給しないことが原則である上、皆勤の事実を考慮して昇給が行われたとの事情もうかがわれない。

したがって、上告人の乗務員のうち正社員に対して上記の皆勤手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものであるから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

つまり、やっている業務内容が正規と非正規で類似している場合、欠勤してほしくないという事情は一緒ですので、皆勤手当てで差を設けることは違法であると判断されています。

 

Q20 通勤手当はどうでしょうか。弊社では同じ通勤距離でも正社員に対して非正規社員の2倍の通勤手当を支給しています。

A20

・通勤手当(不合理である)

上告人においては、平成25年12月以前は、契約社員である被上告人に対して月額3000円の通勤手当が支給されていたが、被上告人と交通手段及び通勤距離が同じ正社員に対しては月額5000円の通勤手当を支給することとされていた。この通勤手当は、通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されるものであるところ、労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではない。また、職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは、通勤に要する費用の多寡とは直接関連するものではない。加えて、通勤手当に差違を設けることが不合理であるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。

したがって、正社員と契約社員である被上告人との間で上記の通勤手当の金額が異なるという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものであるから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

通勤費用については、どのような立場・職種であろうが実費的に要する費用です。そのため、これを補填する目的である通勤手当については、正規・非正規に問わず、平等にする必要性が最も高い手当だといえます。もちろん自宅から事業場までの距離や、通勤日数によって変化をつけるのは構いませんが、正規か非正規かで区別することはできません。

 

Q21 賞与についてはどうでしょうか。弊社では、非正規社員には一切の賞与を支給していないのですが。

A21

賞与については、大阪医科薬科大学事件(平成31年2月15日判決)が参考になります。この件では、正社員には給与の4,6ヶ月分、契約社員にはその8割、アルバイトには一切支給されていませんでした。

これに関して、賞与が査定などなく、基本給のみに連動していたことから、アルバイト職員について、正社員の6割程度の賞与を支給しないと不合理と判断しました。賞与については、会社の裁量が大きい点ではあるのですが、ほぼ同じ業務に正規社員と非正規社員が就いている場合で、非正規社員に一切の賞与を支給しないとすることは違法の可能性があるでしょう。

 

Q22 退職金についてはどうでしょうか。弊社では、非正規社員には一切の退職金を支給していないのですが。

A22

退職金については、メトロコマース事件(東京高裁:平成31年2月20日判決)が参考になります。この事案では、長期間の勤務を継続した契約社員について、一切の退職金を支給しないのは不合理と判断しました。そして、正社員と同一の基準に従った退職金額の4分の1程度を支給すべきであるとした珍しい判決です。

そのため賞与と同様に、一切支給しないとすることにはリスクがあると思われます。

 

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