弁護士コラム
【民法改正】保証契約における極度額の定めについて
こんにちは。弁護士の泊祐樹です。
来たる債権法改正(2020年4月1日が改正法の施行日です)に向けて、
改正の重要ポイントについて、当事務所弁護士が解説をさせていただければと思います。
今回は、「保証契約における極度額の定めについて」と題して、極度額について解説させていただきます。
Q 連帯保証人になってもらうためには、「極度額」を明示しないといけなくなった、と聞きました。具体的にどのように対応したらいいのでしょうか。
A 連帯保証人に支払っていただくことになる最大の金額を、具体的に定める必要があります。
以下、解説いたします。
1.極度額を定めなければ無効
改正法では、個人による根保証契約一般については、貸金等債務が主たる債務に含まれる根保証に限らず、全て極度額(根抵当権により担保することができる債権の合計額の限度)を定めなければ無効となることになりました(改正法465条の2)。
すなわち、アパートの一室の賃貸借契約における根保証や、企業との労働契約の身元保証契約における根保証当についても、極度額の設定が必要になります。
保証人となる人の予測可能性(いくらまでの責任を負うことになるのか)を確保して慎重な判断をする機会を与え、思わぬ高額の負債を負うことを防止して保護を図るための法改正です。
2.極度額の金額はいくらに設定すればよいか
では、具体的に「極度額」はいくらと設定すればいいのでしょうか。
この点、法律上は単に定めていればよく、定めていなければ契約が無効となる、とだけ規定されています。
1円と定めていても、1億円と定めていても、契約は有効です。
当然、保証人となる人にとっては低い金額を設定することが望ましいですし(極度額として定めた金額を超えては、主たる債務者がどれだけの損害を債権者に与えたとしても、責任を負わないので)、債権者にとっては高い金額を設定することが望ましいです(せっかく保証人になってもらうのであるから、実際に生じた損害額を支払ってもらいたいです)。
そこで、極度額の金額は、債権者と債務者でよく協議をした上で定めることが望ましいとされています。
3.極度額の基準、および設定において気を付けること
基準としては、たとえば、債権者が過去の事例で負うことになった損害金を極度額としたり(従業員が業務上横領を行った際に被害金が1000万円に及んだため同金額とする等)、主たる債務者たる従業員の初任給(20万円)の3年分の金額を算出して、金720万円としたり(労働契約の身元保証人契約の場合等)する、ということが考えられます。
このとき重要なのは、「給料3年分」などという抽象的な定めをするだけでは保証人の予測可能性を高めるという趣旨に反するので、上記の通り計算結果の具体的な数字を定める必要がある、という点です。
4.契約書の作成のしなおしの必要性
このような極度額の定めが必要という法改正は、改正法施行後(2020年4月1日)に新たに締結された保証契約に係る保証債務について適用されます。
では、2020年4月1日以前からの賃貸借契約や継続的売買契約に付した連帯保証契約についても、賃貸借契約や継続的売買契約が更新されるタイミングで、改めて極度額を定めた上での連帯保証契約書を作成しなければならないのか、という点が問題となります。
これについては、基本的に不要であると考えられております(引き続き改正前民法が適用され、極度額の定めは不要とされます)。
例えば、賃貸借契約に伴って保証契約が締結された場合、一般的には、賃貸借契約が合意更新をされた場合も含めて、その賃貸借契約から生じる賃借人の債務を保証することを目的とするものであると解され、
賃貸借契約の更新時に新たな保証契約が締結されるものではありませんので、
改正法施行後に賃貸借契約が合意更新された場合、賃貸借に関する規定については改正法が適用されますが(その改正内容は今後作成予定の別の記事をご参考ください)、保証に関する規定は、改正前民法が適用されます。
5.終わりに
以上、個人根保証契約における極度額の定めに関して、簡単にご説明をさせていただきました。具体的にどのような変更がされたのか分からない、法改正の内容に沿った契約書への作り変えをしたいので相談したい、極度額の定めについて当事者間で争いが生じているので間に入ってほしい、等のご要望がございましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。
弁護士 泊 祐 樹