弁護士コラム
原状回復に関するルールについて-債権法改正対応シリーズ賃貸借その2-
Q 原状回復義務に関するルールとはなんですか
A 賃貸借契約の終了の効果として、賃借人の原状回復義務が明文化されました。原状回復とは、借りていた物件について借りたときの状態に戻すことをいいます。また、原状回復の範囲が明確化されました。まず、原状回復の対象になる「損傷」について、通常の使用収益によって生じた損耗と経年変化による損耗が除外されました。また、賃借人の帰責事由によらない(つまり賃借人がわざと傷つけたり、過失=不注意で傷つけたりしたものではない)「損傷」については、原状回復の対象になりません。
Q 賃借人はどの範囲について費用負担する必要がありますか
A 賃借人が通常の使い方をすれば生じるような損耗や賃借物件の経年劣化による損耗については、その回復費用を負担する必要はありません。これを超える部分であり、かつ、賃借人の帰責事由(賃借人がわざと傷つけたり、過失=不注意で傷つけたりしたもの)によるものについては、賃借人がその回復費用を負担する必要があります。
これは従来の判例で示されていた考え方を明文化したものです。賃借人が賃借物件を通常使用する範囲や経年劣化による損耗は、本来的には賃料に含まれているものであるという考えが根底にあります。
原状回復の範囲については、敷金返還の場面で、敷金から控除されている費用が適切かどうかというかたちで問題になることが多いです。
Q 通常の使用収益の範囲か、経年劣化の範囲かどうか、賃借人の帰責事由によるものなのかどうかは、どのように判断しますか
A ポイントとしては、借りていた期間中に生じた全ての損耗について、賃借人が借りたときの状態に戻すというわけではないという点です。具体的に参考になる資料としては、国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を発行しています。
(参考URLhttp://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html)
通常損耗、経年劣化による損耗の例として、家具設置による床、カーペットのへこみや設置痕、テレビや冷蔵庫の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)、が挙げられます。通常損耗、経年劣化による損耗ではなく、かつ、賃借人の帰責事由による損耗の例としては、引っ越し作業で生じた傷、たばこのヤニやにおい、飼育しているペットによる柱等の傷やにおいがあげられます。
Q 賃貸人と賃借人との間で、民法の内容と異なる契約をすることはできるか
A 民法の規定は任意規定なので、当事者同士で民法の規定と異なる特約を結ぶことは可能です。
一方で、例えば居住用のアパートの賃貸借など、契約が消費者と事業者で締結される場合は、消費者契約法の適用があります。そのため、消費者の利益を一方的に害するような規定は、消費者契約法10条に基づき無効となる可能性があるので注意が必要です。過去には、通常損耗分を含めて敷金から充当する特約について、消費者の利益を一方的に害するものとして無効とされた事例があります。