弁護士コラム
貸金庫の内容物について
Q.亡くなった父が貸金庫を借りていました。相続人は、私と兄、妹がいます。兄とはうまくいっておらず10年以上音信不通です。
①貸金庫の中を確認できますか?
②貸金庫の中のものを持ち出すことはできるでしょうか?
③貸金庫の中の現金のうち、法定相続分の三分の一を持ち出すことはできるでしょうか?
1 貸金庫とは
貸金庫の契約は銀行から、銀行が所有する施設の貸金庫を賃貸しています。借主の地位(立場)は相続され、各相続人に移転します。
これにより、貸金庫の処分(解約・利用権の譲渡など)は全員の同意が必要になり、保存は各相続人が単独で行うことができます。そして、内容の確認は、保存行為として各相続人が単独で行うことができます。
2 銀行の対応
1で述べたように、法律上は、相続人の一人が貸金庫の内容確認をすることができます。しかし、銀行がそれに応じた場合、他の相続人から単独で内容を確認した相続人が内容物を持ち去ったなどとクレームになるリスクがあります。そうすると、銀行はクレームになることを避けるために、単純に内容確認に応じない可能性があります。
そこで、公証人に対して、貸金庫を開けることの立ち合いと、内容物の確認を求めて、その結果を公正証書に残す方法が考えられます(これにより作成された公正証書を「事実実験公正証書」といいます)。
3 貸金庫の内容物の持ち出し
貸金庫の内容物を持ち出す行為は、保存行為や相続財産の調査の範囲を超えるものといえます。したがって、相続人の一人が単独で貸金庫の内容物を持ち出すことは認められないでしょう。
銀行の立場から見ても、内容物の持ち出しを認めたとしたら、他の相続人から銀行へクレームが発生するでしょうから、銀行は相続人の一人が単独で貸金庫の内容物を持ち出すことは認めないでしょう。貸金庫の内容物を持ち出すには、相続人全員の同意書を求められるのが通常です。
4 貸金庫の内容物が現金の場合
最高裁の判例によると、現金に相続が発生した場合は、法定相続分に応じて当然に分割されません。したがって、遺産分割をする前は各相続人が相続分に応じて共有状態となっています。
そうすると、相続人の一人から、法定相続分の限度で現金を持ち出したい旨の要望があっても、他の全相続人の同意が必要とされます。
以上