弁護士コラム
相続人の1人による遺産の占有
「父が亡くなったが、母が遺産を独り占めしている」
このように、相続人の1人が遺産を占有した場合に残りの相続人としてはどのような対応がとれるか、考えてみましょう。
1 設例
被相続人の相続太郎が死亡し、相続人には、妻の花子、長男の一郎、次男の次郎の3名がいる。
花子が太郎の遺産を独り占めして、遺産分割協議に応じないため、遺産分割の協議は未了である。一方で、次郎には多額の借金があるとのことである。
2 遺産分割が成立するまでは遺産は共有関係になる
被相続人が死亡すると、相続が発生します。
相続が開始されると、被相続人の物、株式、債権などに対する権利関係は、遺産分割されるまでの間は、各相続人の間で法定相続分に応じて共有関係になります。この遺産分割協議までの間で共有されている状態を遺産共有といいます。遺産共有の間は、各相続人の間では法定相続分に従った共有がされていることになります。
また、例えば土地については、ひとりの相続人が単独で、相続人全員のために法定相続分に従った持ち分で共同相続登記をすることができます。
上記設例では、花子が2分の1、一郎と次郎がそれぞれ4分の1の持ち分で遺産共有状態になっています。太郎の財産に土地や家屋などの不動産があった場合は、次郎が相続登記をすることで、登記簿上は次郎が4分の1の持ち分を持っているという外観が成立します。
3 遺産分割協議が成立すれば相続の時から協議内容に従った権利関係の移転が起きる
この場合、相続人間で遺産分割の協議を成立させ、各相続人間での財産の継承について決定すれば、遺産分割の効力は、相続開始時点にさかのぼって効力を生じます(民法909条)。そのため、被相続人が死亡した時点で、遺産分割協議の内容に従った権利関係の移転が生じたことになります。
上記設例では、仮に、太郎が生前住んでいた土地及び家屋について、一郎が取得することが決まった場合、土地と家屋は太郎が死亡した時点で、一郎が相続により取得したことになります。
4 遺産分割協議の前に第三者が権利を取得した場合は例外になる
一方で、遺産分割協議が終わっていない間に、相続人のひとりが、土地について共同相続登記をし、自分の土地の持ち分権について相続人以外の第三者に売却するなどして処分したなど、遺産分割協議が終わる前に、第三者が権利を取得した場合は、第三者の権利を害することができません(民法909条但書)。
設例の場合、次郎が遺産分割成立前なのをいいことに、土地と家屋について相続登記をして4分の1の持分登記をし、その持分を無関係のAに売却し、Aに持分権の移転登記をした場合を考えます。この場合は、Aは遺産分割協議の結果にかかわらず、次郎の持ち分について有効に権利を取得します。
その結果、太郎の土地と家屋については、花子と一郎とAの共有関係になります。この時、Aが共有物分割訴訟を提起した場合、裁判所はこのAの共有物分割請求の訴訟提起を適法なものとしています(最判昭和50年11月7日)。
そのため、Aから共有物分割請求の訴訟を受けた、花子と太郎はこれに応じなければ、土地を家屋の共有を解消することができません。
5 相続人の一人が遺産分割協議に応じない場合は?
相続人の一人が遺産分割協議に応じない場合は、遺産分割調停を起こして、裁判所を交えて話し合いを行い、遺産分割協議をしていくのが効果的です。
設例のような場合で、遺産分割協議がなされないまま又は相続登記をしたまま、期間をおいてしまうと、第三者へ処分される可能性がより高まってしまいます。そのため、設例のような場合は、一郎は遺産分割の調停を申し立てることも視野に入れるべきと考えられます。
6 相続人の一人が遺産分割協議書にサインをするように求めてきたら?
例えば、相続人の一人が遺産分割協議をまとめたとして、遺産分割協議書へのサインを求められた場合は、内容について慎重に吟味し、自分に不利な内容がないかを十分に確認したうえでサインする必要があります。一度、協議書に署名押印してしまうと、あとから、遺産分割の内容に納得がいかないからといって内容を覆すことは非常に困難なことになります。
以上