採用

1 採用の自由

民事法上の大原則の1つである契約締結の自由の原則からすると、使用者は、どの労働者を採用するか否かについての自由を有しています(これを「採用の自由」といいます)。

ただし、なんらの制限も受けないということではなく、性別を理由とする採用差別の禁止(男女雇用機会均等法5条、7条)、年齢を理由とする採用差別(労働施策総合推進法9条)等、法令による制限を受けます。

2 採用内定

採用内定とは、労働契約の成立過程において、(a)使用者による労働者の募集(b)応募者に対する使用者による採用試験の実施と合格判定、を経て応募者に対して使用者より行われる採用予定もしくは決定通知のことをいうとされています。

採用内定には①「採用予定としての採用内定」と②「採用決定としての採用内定」があります。

①の場合、使用者が内定を取り消した際、内定者としては労働契約上の地位を主張することができません。使用者が内定者に対して不法行為による損害賠償責任(民法709条)を負うか否かが問題となるに留まります。

他方、②の場合は使用者が内定を取り消す行為は法的には労働契約の解約(つまり解雇)ということになります。そのため、解雇の有効性の判断は労働契約法16条(無期労働契約の場合)もしくは17条(有期労働契約の場合)の適用があります。内定者は、内定の取り消しは無効であって労働契約は有効に成立しているため自分は従業員としての地位を有しているのだと主張し、賃金請求権などの権利も主張できます。

したがって、使用者の出した内定が①と②のいずれにあたるのかは重要な問題であるといえます。

3 採用内定の判断基準

採用内定の判断基準を示した最高裁判例として大日本印刷事件判決(昭和54年7月20日)があります。同判決によれば、採用予定としての採用内定と採用予定としての採用内定との違いの判断、すなわち、労働契約成立段階に至っているか否かの判断は「採用通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定」されているか否かであるとされています。

つまり、使用者が採用内定通知を出す場合、その後に正式採用の連絡等の「特段の意思表示」を予定していないような場合は、当該採用内定は採用決定としての内定となると解されます。

4 内定の取消し

これまでお話しをさせていただきましたとおり、使用者が出した内定が採用決定としての内定である場合には、その時点で内定者との雇用契約が成立しているため、特別な事情がない限り、使用者による内定の取消しは許されません。

もっとも、一切取消しが許されないというわけではなく、前掲最高裁判例によれば、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる。」としています。

たとえば、⑴内定を出した学生が大学等を卒業できなかった場合、⑵健康上の問題が生じた場合(就業に差し支える場合に限る)、⑶内定通知書や誓約書に記載した内定取消事由に該当した場合、⑷内定後に刑事事件を起こした場合等は内定取消しが適法となる場合があります。

5 最後に

採用内定通知後、予想外の事情により、内定者の取消しをお考えの企業様は適法に内定取消しができるのか一度弊所の弁護士までご相談ください。

 

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